書家の写真 ∞ 八戸香太郎

活動してきた各国の街を撮影中。オフィシャルなHPは→→→

真っ白 2




これまで心斎橋店でサポートを受けた事はなかったが、ロンドン店での治療をみるかぎり、
かなりの症状でも適切に診断、治療してくれるはずである。

そう、ここは「ジーニアス」がいる場所だ。

私は期待しながら、すこし興奮気味に症状について訴えた。

「では、とりあえずほかのハードから起動してみましょうか。」

医者はいろんなコードを引っ張りだし、モニターを外付けに変え、専用のハードディスクを接続してボタンを押した。

デゥアーン!

ああ、この音だ。この起動音を待ってたんだよ!
なんだかキリストが「受胎」した時のような宗教的な響きを感じながら、天井を見上げる私。


・・・

「あれ、おかしいですね。」

え?
悦に入っていた私をよそにジーニアスは渋い顔をしている。

「認識してませんね、ハード。」

なんでやねん!

だってダーンて。ダーンて鳴ったじゃん!

取り乱しながら関西弁とも関東弁とも違う言葉で叫ぶ私。


しばらくしてジーニアスは少し申し訳なさそうな表情で、やさしく丁寧に、しかしきっぱりと症状について語りはじめた。

ナニモキコエマセーン・・・
キキタクアリマセーン・・・

説明はこうだ。
要するに論理的な問題であれば、ここで解決できるのだが、ハードを認識していないという事は、物理的損傷が考えられる。しかも全く認識していないということはかなり重度の損傷だろう。これを修理するには専門の設備が整った場所でないと無理だが、アップルとしてはそのようなサービスをしておらず、ハードの交換という方法をおすすめする。


えっと、よくう理解できませんが、つまりアレですか!?
ハードの交換て事はいままでのデータが全て消えるって事ですか?

「ええ、つまりそういう事です。残念ながら。」

ガーン!ほんとにガーンだよ!
こんどはお寺の鐘のような音が脳みそを直撃した。

でも、まだにわかには信じられない。いや、信じたくない。
私は何か、何とかデータを失わない方法はないか、しつこくしつこく訪ねた。

「ええ、これはアップルが奨励してるわけでは決して無いのですが、じつは民間でデータをサルベージしている会社はあります。」

もう何でも良いよ。それだ。その番号を早くくれ。
君はジーニアスではなかったのだ。ただそれだけの話なんだよ。
自分の責任を棚上げして、悪態をつく私。

「ただ、アップルとしては保証できませんので、あくまで自己責任という事でお願いしますね。」

保証も責任もいらない。ただデータが欲しいだけなんだよ。
私は最悪の客を素で演じながら、その番号をむしり取るように受け取り、マシンガンのような早さで番号を打ち込む。

データのバックアップは一応一年前にとっていたものの、そのハードディスクはロンドンにある。いま欲しいデータは何もないのだ。
それに写真、書類を失うという事は私はこの一年、何の活動もしていない事になる。つまり私は生きていないも同じ。ただの物体に過ぎない。

この悪夢を打開してくれる、受話器の向こう側へ。
私はすがるような気持ちで電話をかけた。

つづく。



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photo by project8 - -
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